abc予想とゲノム解析
2020年春、未解明だった数学の難問であるabc予想を、望月新一・京大教授が証明したとするニュースが世界をかけめぐりました。これは、2012年夏に、望月教授が自身のホームページ上に論文として発表した「宇宙際タイヒミュラー理論」を指します。
発表から世間に広く知られるまでに長い年月を要したのは、この理論が本当に正しいかどうかを専門家たちが検証するのに、それだけの時間がかかったためです。そして、いまなお、著名な数学者たちの間で激論が続いていることを、先日、NHKで放送された「数学者は宇宙をつなげるか? abc予想証明をめぐる数奇な物語」で知りました。1+1=2、2×2=4などと、普段当たり前のように用いている数式についても、それが成立するための前提が揺らいだ途端、導き出された答えの確証は消え、混沌の渦に放り込まれてしまうのです。
また、今春、米国の科学雑誌”Science”に、人体の設計図とされるヒトゲノム(遺伝情報のセット)の配列が、世界ではじめて完全に解読されたとの論文が発表されました。ヒトゲノムは60億の文字配列からなり、世界各国の研究者たちの業績により、明らかにされたようです。
このように聞くと、人体の謎が隅々まで解明されたと勘違いしてしまいがちです。しかし、実際には、遺伝性疾患の研究を進めるための重要な手がかりとなるものの、多くの病気や健康を知る上で、氷山の一角を垣間見たのに過ぎません。
人体という小宇宙は、無限の不思議に満ちています。だからこそ、abc予想同様、私たちの興味をひきつけてやまないのです。