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空蝉と夏に想う

[2023.07.27]

毎年、朝の診察室で蝉の鳴き声が聞こえるようになると、梅雨が開け、本格的な夏が到来したんだと感じます。また、蝉のとまった木の陰に抜け殻をみかけるとき、羽ばたき躍動する小さな命に想いをはせると同時に、モノトーンなせつなさを覚えます。

昔の人たちは、蝉の抜け殻を、空蝉(うつせみ)と表現しました。蝉が真夏の象徴ならば、空蝉は過ぎゆく夏が残した叙情の一片といえるかもしれません。空蝉は、古語の現人(うつしおみ)から転じたともされ、現世やそこに生きる人間を意味する場合もあります。「源氏物語」に登場する女性の空蝉という名には、哀しみを残して巡る季節や世の中の不確かな移ろいを記する願いが込められたのでしょうか。

思えば、蝉も人も、なんとはかない生涯でしょうか。人間の体は、細胞レベルで毎日リンゴ1個分が新しくなっているといわれています。そう考えると、1か月前の自分は、いまの自分の抜け殻、空蝉のようにも思えてきます。だからこそ、私たちは、与えられたこの人生を、健やかに生き抜きたいと願い、そのための努力を惜しまないのでしょう。

今年もまだ、暑い夏が続きそうです。

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