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「七日間」と何気ない日常

[2023.03.30]

妻が願った最期の「七日間」。そう題した71歳男性の文章が朝日新聞の投稿欄に掲載されたのは、数年前のことです。「七日間」は、末期癌で入院中だった妻の言葉を、夫が病室でノートに書きとめたとされる詩のタイトルです。「神様お願い この病室から抜け出して 七日間の元気な時間をください」。一日目には、そして、二日目には・・・・・・2人で綴った願いは、叶いませんでした。

最近、あらためてこの文章に触れる機会を得ました。32行の文字列から溢れだす、何気ない日常への感謝や羨望、そして、家族や友人への深情。一日目から七日目までに記された願いのいずれも、普段の生活の中で当たり前にできることばかりです。

死は、私たちに平等に訪れます。それがゆっくりと近づくとき、ともに忍び寄る、当たり前が当たり前でなくなることへの不安、悲しみ、絶望。しかし、そんなことにはおかまいなしに、秒針は進んでいきます。ただ、それは、残された希望をかき消すためでなく、この世に生きた記憶を刻むためのかけがえのない時間のようにも思えてなりません。

臨床に携わる仕事をしていると、患者さんの生き方や死に方にどう向き合うか、自問自答の繰り返しです。ありきたりの言いまわしですが、私たちは、病気だけでなく、それを抱える患者さん自身を診ています。それぞれの患者さんにとっての当たり前の健康がなるべく叶うよう。また、今日この1日を思い残すことなく過ごせるよう。「七日間」は、何気ない日常の大切さに気づかせてくれます。

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