老舗の味わいと最新のグルメ
京都での学生時代、いくつかのアルバイトを経験しましたが、そのうち、当時大学前にあったフランス料理店での皿洗いがあります。せまい厨房の端にある流し台に次々とたまる皿の、べっとりとついた油を、泡立てたたわしでそぎ落とし、蒸気の立ちこめる洗浄機の中に皿を並べていく作業の繰り返しです。汗だくで働いた後の楽しみは、シェフお手製のまかない料理で、風呂なしアパートで暮らす貧乏学生にとって、それは、とても贅沢なごちそうでした。
さて、ごちそうにも、創業○○年を誇る老舗の味わいや、新進気鋭の料理人が手がける最新のグルメなど、いろいろあります。そして、お薬の世界にも、同様の効果を持つものの中に、いくつかの種類があります。
たとえば、心房細動という不整脈の危険な合併症である脳梗塞を予防する目的などで用いられる抗凝固薬には、発売から50年以上経過したいまも、なお幅広く用いられているワルファリンや、10年近く前から登場し始めた、エドキサバンやリバーロキサバンといった新規経口凝固薬があります。老舗の味わいともいえる前者は、廉価である反面、定期的な血液検査によるフォローアップが必要などの特徴があります。一方、最新グルメのように人気上昇中の後者は、ワルファリンと比べて高価ですが、ほかのお薬との飲み合わせや食事との食べ合わせが少なく、ワルファリンほどの細やかな用量調整が不要です。
当院では、患者さんの病状にあわせ、患者さんのご希望を伺いながら、抗凝固薬を選択しています。それが、患者さんにとってのごちそうとなりますよう。