夏の終わりと線香花火
[2024.08.29]
夏の終わりの線香花火には、どことなくせつなさが漂います。きらびやかに大輪を咲かせる打ち上げ花火と対照的に、暑い季節の去りゆくそのときを静かに灯すかのようです。「天に打揚地には線香花火かな」山田夏子。
線香花火に火をつけると、その先端に、小さな火球がふるえるように形作られていきます。続いて、火球から光の花がパッと咲き乱れ、パチパチと散るように輝きます。光の花は、やがて徐々に小さくなり、しなだれ、ついに燃え尽きます。それぞれの段階には、蕾(つぼみ)、牡丹、松葉、柳、散り菊という名がつけられています。「消え際の線香花火の柳かな」鈴木花蓑。
また、線香花火を人生にたとえる人もいます。火球から放たれる数十秒間の瞬きに、幸せな思い出や、悲しい記憶を映し見るのでしょうか。「ぼつつんと線香花火の涙かな」富村波聴。
火球を揺らすは、ひとすじの涼風。猛暑の日々とも、そろそろお別れでしょうか。