名曲喫茶と音楽療法
京都での学生時代を過ごした風呂なしアパートの近くに、小さな喫茶店がありました。この店の静かな雰囲気とバターライスが好きで、京都学派の哲学書や当時流行っていたカオス理論に関する書籍などを提げて、時に、日がな一日入り浸っていました。
数年前、京都で医学の学術集会があった際、この店を再訪したことがあります。コーヒーを注文し、懐かしそうに店内を眺めていると、学生時代にはほとんど会話したことのなかったマスターから「昔、よくこのテーブルに座って、本を読んでいたね」と声をかけていただき、とてもうれしかったのを覚えています。
学生当時の記憶では、店の入り口に、名曲喫茶と書かれた看板があったような気がします。壁には、クラシックの有名な指揮者の写真が飾られ、店内には、いつも、読書や静かな会話の時間を彩ってくれる素敵な旋律が流れていました。
音楽は、医療や介護の分野でも注目されています。たとえば、民間団体の資格として、音楽療法士というのがあります。音楽と人とのかかわりに注目し、孤立の防止や心身のリハビリテーションなどを支援する役割を担っているようです。
四半世紀のときを経て、京都の小さな喫茶店でマスターと思い出話ができ、幸せな気分に満たされていたときにも、あのころのように、レコード盤から流れるクラシックの名曲が、店内を包んでくれていました。