ミノムシと春の終わりの幻想
[2022.06.02]
先日、山口市の大原湖周辺を訪ねた際、木の枝にぶら下がったミノムシを見つけました。ミノから少し顔をのぞかせていたイモムシは、私が近づいた瞬間、スッと隠れてしまいました。はて、いまは春、ミノムシの季節は、確か秋だったような・・・・・・と思いながら、ジッと眺めていました。
「蓑虫(ミノムシ)の音を聞きに来よ草の庵」と詠んだのは、松尾芭蕉ですが、ミノムシは、実際には鳴きません。ただ、古来より、季節の風物詩として愛されてきたことに、間違いないようです。初夏に卵からかえったイモムシは、秋にかけて枯れ葉などを集めてミノをまとい、冬眠を迎えます。春にさなぎとなり、やがて、成虫として蛾(ガ)になります。
イモムシは、その口から、クモの糸より強く、ナイロンの4倍の強度ともされる特徴的な糸を出します。その糸を用いて、枯れ葉や枝をつなぎ合わせ、さらに、木の枝まで糸を伸ばし、ミノムシとして、ユラユラと宙に浮くのです。
さて、いま目の前で、薫風に揺られるミノムシは、おとなになるための季節を間違えたのでしょうか。あるいは、ミノの中の居心地が思いのほか快適で、おとなになんてなりたくないと思っているのでしょうか。まだ少し肌寒い山里の、春の終わりの陽気に包まれ、しばし日常のあわただしさを忘れ、幻想を抱いたひとときでした。