「耳をすませば」と聴診
アニメ映画「耳をすませば」(近藤喜文監督)は、お気に入りのスタジオジブリ作品のひとつです。主人公・月島雫とそのまわりの人たちが紡ぐ甘酸っぱいストーリーもさることながら、舞台となったニュータウンのどこか懐かしいたたずまいがとても魅力的だからです。
モデルとなったのは、東京都の多摩ニュータウンといわれています。京王線「聖蹟桜ヶ丘」駅で下車し、橋を渡り、曲がりくねった急な坂道を歩いていくと、映画に描かれたのとそっくりな、階段や神社、地球屋のあったロータリーを見ることができます。コンクリートと雑木林の織りなす町並み、そして、そこから聞こえてくる人の声、虫や鳥の鳴き声、電車や自動車の音は、高度成長期からバブル期までに青春時代を過ごした人たちにとっての原風景なのかもしれません。
さて、循環器の医師にとって、日常診療に欠かせないのが聴診です。聴診は、心音や呼吸音を評価するための医療行為で、患者さんとの静かなコミュニケーション手段です。たとえば、心臓弁膜症やそれによって生じる心不全の音、喘息の音などを捉えることができます。最新の検査方法があまたある現代の医療環境において、聴診を丁寧に実践することは、あるいは古いやり方なのかもしれません。しかし、検査結果だけではわからない患者さんの訴えを、直接感じることができるのも、また事実です。聴診器をあて、そっと耳をすませば、患者さんの鼓動が、目の前に広がる映像のように響いてくるのです。