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風の盆と秋の風

[2021.08.26]

富山県に伝わる年中行事のひとつ、おわら風の盆は、通常、毎年9月1日から3日間、開催されます。舞台となる越中八尾地区は、細い石畳の坂道に沿って、昔ながらの家々が軒を連ねる、山間の静かなたたずまいです。風の盆の時期になると、あちこちにぼんぼりが灯り、哀切感漂う胡弓の音色とおわら節の旋律が、辺りにゆったりと響きます。そして、編み笠を深くかぶった男女の踊り手たちが、無言で舞いながら、夜の帳に溶け込むのです。

学生時代、風の盆という言葉に郷愁を誘われ、故高橋治さんの作品「風の盆恋歌」(新潮社)を読み、その静謐で妖艶な物語に魅了され、おわら風の盆の開催中や前夜祭の時期に、何度か現地を訪ねたことがあります。日が沈み、徐々に暗くなってきたころから、町内のどこからともなく町流しが始まります。湿った暑さの中、スーッと吹き抜ける涼風が、五穀豊穣の祈りとともに、秋の気配を運んでくれていました。

長引く新型コロナ禍で、昨年に続き、今年も、おわら風の盆が中止になったと聞きました。同様に、国内のあちこちで、これまで開かれていた行事や祭りが、相次いで中止されているようです。心配なのは、古きよき伝統を受け継ぐ者が途絶えてしまいはしないかということです。新しい生活様式にあっても、大切なものを守り、残していきたい。秋の風を、マスクを外した素肌の頬で感じることのできるようになる日を心待ちにして。

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