あるSF短編漫画と新しい世界
新型コロナウイルス感染が猛威をふるうようになってから、十代のころに読んだある漫画を時々思い出します。藤子・F・不二雄の「流血鬼」(小学館)というタイトルのSF短編です。同氏は、「ドラえもん」など子ども向けの作品で有名ですが、「笑ゥせぇるすまん」などで知られる藤子不二雄A同様、社会問題を扱った硬派な傑作も、数多く生み出しています。
「流血鬼」は、国外で発生したウイルスによる奇病が原因で、日本を含む世界中の人が吸血鬼になってしまうというストーリーで展開します。最後の人類として残された主人公たちは、木の杭と十字架で、吸血鬼狩りを実行していきます。しかし、吸血鬼の正体は、実は、ウイルス感染によって新たな環境に適した身体に生まれ変わった新人類であり、血を吸うことは、進化への過程において、新人類を増やすための行為なのでした。仲間が次々と吸血鬼になっていく中、逃げ込んだ洞穴で、主人公は、既にウイルス感染し、吸血鬼となったガールフレンドに嚙みつかれます。最後のコマには、吸血鬼となって目覚めた主人公が、友人らとともに、明るい光に満ちた空を見上げている様子が描かれていたように覚えています。
いま、新型コロナウイルスワクチン接種事業が、少しずつ進められています。ワクチン接種後の未来には、「流血鬼」の主人公が笑顔で迎えたような新しい世界がひろがっているでしょうか。