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忘れられない患者さんと矜持

[2023.03.16]

医者になってまだ数年目のころに担当した、忘れられない患者さんがいます。

その方は、初老の女性で、肥大型心筋症に伴う心不全の悪化で入院し、集中治療室で全身管理を開始されました。集中治療中といっても、意識はしっかりとして、普通にお話できる状態でした。テレビ朝日系で放送の「相棒」という番組がお気に入りで、主人公とともに活躍する、通称「亀さん」の話などを、よくお聞きしました。

ある日、ベッドサイドで、モニタリング用の動脈ラインを確保しようとしていました。「先生って、なんだか亀ちゃんみたいね」と、患者さんがおっしゃられた直後、心電図モニターの波形が突然乱れ、心室細動という危険な不整脈となり、私の目の前で、あっという間もなく心臓が止まりました。

急変することが多いのが、循環器疾患の特徴ともいえます。それに対し、患者さんが望まれれば、心臓を動かし、その命を1秒でも長くつなぐことが、私たち循環器を専門とする医師の役目です。それができたときの思い出より、叶わなかったときの患者さんの表情や声の方が、心に焼きついて離れません。その記憶を生涯背負いながら、生きたいと願う患者さんのために尽くすことが、循環器医としての矜持のような気がします。

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