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ブックカバー・チャレンジと医療の原点

[2020.05.20]

新型コロナ禍にあって、人どうしの直接触れあう機会が少なくなっている中、インターネット上のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では、いくつかのユニークな取り組みが広がっています。ブックカバー・チャレンジもそのひとつで、SNS上に、1日1冊、お気に入りの本の表紙写真のみを、1週間連続で投稿するのがルールです。外出自粛が求められる中、あらためて読書のたのしさを知ってもらおうと始められたのがきっかけとされ、私も、先日、大学時代の友人からのバトンタッチで、挑戦してみました。
「川の見える病院から-がんとたたかう子どもたちと-」(岩崎書店)は、そのうちの1冊です。小児科医の細谷亮太さんによるエッセー集で、私がまだ医学生だったころ、知人からいただいたものです。ブックカバー・チャレンジを機に、久しぶりにページをめくりました。
同書の中で「プロフェッショナル・アティチュード」という章があります。がんで亡くなった患者さんの葬式で、祭壇の前に立った著者が、患者さんとのいろいろな思い出を振り返り、「もう悲しくて涙ばかりか声まであげて泣いてしまいました」とする一方で、「こんなんで、プロフェッショナルっていえるのかな」と自問します。これに対し、「患者さんに死なれても泣かないですむようになったら、この仕事はやめよう」と結んでいます。また、別の章では、「私は、悲しいときに泣けなくなったら医者をやめるべきだと思っています」と綴っています(「真美ちゃんが今朝、自宅で」より)。
細谷さんと同じような場面を、これまで幾度も経験してきました。私の場合、その涙は、悲しみにとどまらず、ときに、悔しさだったり、よろこびだったりしました。患者さんのために泣くことのできる医師でいたい、そのために、患者さんと共有する時間を大切にしたいとの思いは、私にとって医療の原点です。

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