胸痛と背骨
病院勤務をしていたころ、胸痛で緊急受診された高齢の女性を担当したことがあります。循環器を専門とする者の習性で、胸痛の原因として、まず、心筋梗塞、不安定狭心症、肺塞栓症、大動脈解離といった、緊急性の高い病気を鑑別していくのですが、どうやらいずれでもなさそうでした。
それでも胸の痛みを訴え続けられる患者さんを目の前にして、もしやと思い実施したCT検査で、その原因が判明しました。今回の胸痛の原因、それは、背骨の圧迫骨折だったのです。そのため、整形外科の医師に、無事に患者さんを引き継ぐことができました。
背骨が原因でなぜ胸痛が起こるのかと思われる方も多いでしょう。背骨は、1本の棒状ではなく、ブロック状の骨が積み重なってできています。骨と骨との隙間からそれぞれ神経が出ていますが、その支配領域はことのほか広く、胸のほうに影響を及ぼす神経が骨折などにより圧迫されると、背中の痛みではなく、あたかも循環器の病気が原因であるかのような胸痛を引き起こすのです。
骨折でなくとも、背骨が原因の胸痛は、実は少なくありません。循環器内科を標榜する当院では「胸が痛い」との訴えで来院される方が多くいらっしゃいます。そして、胸のレントゲン写真を撮ってみると、背骨がS字状やくの字状に曲がっている、側弯の所見を認めることがあります。側弯は、胸痛の原因として、日常診療でよくみられる病気です。側弯が原因の場合、整形外科で専門的に評価してもらうことをお勧めしています。また、神経が障害されることからくる痛みに対するお薬を用いることで、症状が軽快することもあり、当院でも対応しています。
