気霜とCOPD
「息白し」は、冬の季語で、この時期に吐く息が白くなる情景をあらわします。冷たい空気の中で息を吐くと白く見えるのは、やかんから出る湯気や雲と同じ原理です。あたたかい息が寒気に放たれると、息に含まれる水蒸気が冷やされ、白い水滴に変化します。水滴を形成するには、その核となる空気中の塵や埃といった浮遊物が必要です。そのため、空気の澄んだ南極や北極では、基本的に吐く息が白くなることはないそうです。
吐く息が白くなることを漢字2文字であらわすと、気霜(きじも)となります。気霜という表現は、森鴎外や志賀直哉の小説にも登場しますが、あまり馴染みがありません。ただ、歳時記にある言葉に似て、季節感たっぷりの洗練された情緒を感じます。
さて、気霜を体感したくても息を吐き出しにくい、そんな病気があります。慢性閉塞性肺疾患がそれで、最近では、COPDという言葉も一般に知られるようになりました。特に、喫煙習慣のある人で発症する肺気腫、いわゆるタバコ肺は、COPDの代表格です。
タバコ肺では、肺の慢性的な炎症により、息を吸うことはできてもうまく吐き出せないのが特徴です。そのため、患者さんは、呼気時に笛を吹くように口をすぼめます。ちなみに、十分な酸素ののった血液を体中に回すこともできないので、チアノーゼといって、息ではなく指先が白くなることもあります。
新型コロナ禍最盛期に比べ、冬場でもマスク姿が減ってきつつある昨今、気霜を感じる機会も増えてきたような気がします。年の瀬、世の中で吐き出される白い息が、タバコの煙ではなく、気霜でありますように。
