ブラウンワルドと心臓病学
Eugene Braunwald(ユージン・ブラウンワルド)。循環器を専門とする医師で、その名を知らない者はいないでしょう。
彼の名を冠した名著"BRAUNWALD'S HEART DIDEASE(ブラウンワルド心臓病学)"は、循環器疾患を学ぶ上で最も信頼できる情報源で、必携のテキストです。世界の第一線で活躍する循環器専門医たちによって著わされ、最新の知見とともに版を重ねたその分厚い原著を手にすると、世界中の循環器医と同じものを目にしているという恍惚感を味わうとともに、心臓をめぐる研究の壮大な歴史を体感することできます。
ブラウンワルドを最初に知ったのは、医学生だったころ、不安定狭心症のBraunwald分類について勉強したときでした。心臓の動脈が狭窄し、血液の供給量が低下するときに起こる狭心症は、胸痛などの症状があるものの、多くが致死的ではなく、緊急性に乏しいといえます。しかし、ときに心筋梗塞に移行しやすい危険な狭心症が潜んでおり、それを不安定狭心症と呼び、安定した狭心症と区別します。ブラウンワルドは、不安定狭心症を、臨床状況と重症度によりさらに細分化し、その原因や緊急度について予測できる分類を提唱したのです。カテーテル治療や抗血小板療法など、いまでこそ虚血性心疾患に対するスタンダードな治療法は確立されていますが、その礎を築いたひとりといえるでしょう。
今春、ブラウンワルドが亡くなったとの報を知りました。その瞬間、心臓の世界に輝く巨星が消えたかのようでした。晩年、ある医学雑誌の対談記事で、循環器病学の向かうべき未来について尋ねられた際の、ブラウンワルドのこんな言葉が残っています。「それは予防であり、特に虚血性心疾患の予防が最重要だ」。この思いは、私が循環器領域、そして、心臓病学を専門とした理由と同じです。ブラウンワルド亡き後も、彼の残した心臓病学は、その輝きを失うことはないでしょう。
