パンと戦争
「なぜ戦争が起こると思いますか」。あるとき、教授が私たちに問いました。法学部の学生時代にオブザーバー参加していた、経済学部のゼミでのことでした。人種、文化、宗教、政治信条などが異なるからといった意見が出ました。これに対し、教授は首を振りながら答えました。「そんなことだけで戦争は起きません。違う価値観の者どうしでも共存できます」。そして、こう続けました。「戦争の原因は、パンです。食べる物がなくなると、人は相手からそれを奪おうとするのです」。
この逸話を思い出したのは、人の生活エリアでクマの出没情報が相次いでいるとのニュースを、最近よく耳にするようになったからです。本来、クマは山中で暮らし、夏場に必要な餌を体内に蓄えて冬眠します。しかし、十分な餌がなければ冬眠できず、餌を求め、山から出て行動せざるをえません。それは、人にとってもクマにとっても不幸なことです。
人とウイルスの関係も、似たようなものかもしれません。ウイルスは、何かに寄生してでないと生きていけません。生きるために、人やその他の動物といった宿主の細胞内に入り込むのです。宿主を死にいたらしめるウイルスにかかってしまえば、人の体の中は、まさに戦争状態といえるでしょう。ただ、人が、ウイルスによって免疫を獲得し、生命体としての進化を続けてきたのも事実です。そう考えると、ウイルスに対し、戦うことと同時に、うまく共存するための方法を模索し続けることが大切であるようにも思えます。
だれもが満足できるほどのパンを手に入れることができるなら、戦争のない世の中というのも絵空事ではないような気がします。
