ゴセシケとワイセ
世の中は、いろんな略語であふれています。身近なものでいえば、スマートフォンの「スマホ」、100円均一ショップの「百均」、スーパーマーケットの「スーパー」など、もはや省略された呼称のほうが一般的に認知されている感じがします。また、割り前勘定の「割り勘」、物的流通の「物流」など、むしろ略語のほうがイメージしやすいものすらあります。
そんな中、個人的に最も印象深い略語が「ゴセシケ」です。小学生のころに図書館で借りたSF小説「合成怪物」(レイモンド・F・ジョーンズ作、半田倹一訳、岩崎書店)、その中に登場する、陰謀に陥れられた科学者夫妻が、復讐のためにつくりだした合成神経細胞群塊が、略して「ゴセシケ」なのです。小説のストーリーをほとんど覚えていないのですが、「ゴセシケ」という奇妙な響きをもつこの言葉だけは、いつまで経っても妙に頭から離れません。ちなみに、原著では、cluster of synthetic neuronsで、単に"frog"と記載されているようです。そう考えると、訳者のセンスの秀逸さが光る略語ともいえるでしょう。
さて、医療の世界も、略語で満ちています。医学用語には外来のものも多いことから、日本語より、英語やドイツ語がもとになった略語が多い気がします。
たとえば、研修医のころ、先輩医師や看護師さんが、血液検査の結果を見ながら「ワイセが上がっている」などと言っているのをよく耳にし、「ワイセ」という言葉を知りました。テキストに載っていない「ワイセ」、実は、白血球の略語です。白血球は、ドイツ語でWeissen Blutkörperchenといい、「ワイセ」はその読み方に由来します。「ワイセが上がっている」とは、白血球の数値が高いことを意味し、炎症所見をみる指標のひとつになります。ちなみに、英語では白血球をleukocyteといい、「ワイセ」でなく「ロイコ」という医療者もいます。
「ゴセシケ」は、50年以上前のSFの世界に登場した合成怪物ですが、いまの科学技術をもってすれば、「ゴセシケ」を生み出すことは必ずしも絵空事ではなさそうです。もし、「ゴセシケ」が実在し、私たちの体内で暴れはじめたとしたら、はたして「ワイセ」は上がってしまうのでしょうか。シュールレアリズム、略して「シュール」な展開に、想像が膨らみます。
