あのころの道と時を歩く
昨秋のことですが、神戸市での勉強会に参加した後、阪神電車の西宮駅で降り、芦屋市の打出駅まで歩いてみました。新聞記者時代、両駅の間にある香櫨園駅近くのアパートに住んでいたため、懐かしくなったからです。当時、震災から5年経過したころでしたが、アパートの周辺には、かつて家があった土台のみ残された景色が、依然広がっていました。
西宮駅から歩いて数分すると、「えべっさん」として親しまれる西宮神社の境内が見えてきます。そこから国道43号に出ると、記者時代の休日に時々ジョギングしていた西宮浜と芦屋浜の潮風を感じることができます。そのままさらに西へ進むと、香櫨園駅と夙川にたどり着きます。私が訪ねたころは、秋の陽光を受けた木々の緑が豊かでしたが、桜の時期にはきっと、川沿いを彩る爛漫の花飾りが美しいことでしょう。
そんな夢想をしながら、夙川を背に線路沿いを歩くと――。私が住んでいたアパートは、残っていました。そして、その周辺は、瀟洒な住宅で埋め尽くされていました。震災で一度なくなった街が、以前にも増して輝きを放ち、同じ場所に存在している。過去と現在をつなぐ時間軸が、圧縮された状態で体内に入り込んだあと、パーンとはじけたような感覚でした。
打出駅近くの喫茶店で日替わりランチを食べながら、1時間ちょっとの贅沢な散歩を振り返りつつ、思い出の阪神間をあとにしました。